小・中学校や幼稚園・保育園の先生たちに講演をすると,質疑応答で親への対応についてよく聞かれます。

親からの理不尽なクレームでまいっている。
モンスター・ペアレントがいて困っている。
親とのトラブルを未然に防ぐには? こういったお悩みやご質問がよく出ます。

私が大事だと思うのは、日ごろから親とのよい関係、つまり信頼関係をつくっておくことです。
しかも、できるだけ早い段階で。
そうすれば、理不尽なクレームをいきなりつけられるということもなくなります。

信頼関係が全くできていないと、ちょっとした事で「うちの子がこう言ってるんですけど、一体どういうことなんですか?!」といきなりきつい言葉で言われることもあり得ます。

とくにママ友達などもいなくて孤立している親は、不安が先立ってしまいこのような感情的な行動に走りがちです。

でも、事前に信頼関係ができていれば、親も「あの先生がそんなことを言うはずがない。
そんなことをするはずがない。
何か事情があるのかも…」と、いったん立ち止まり冷静に行動できるようになります。

そして、何より大事なのは、信頼関係があってはじめてよい教育ができるという事実です。
つまり、子どものためにもこれは非常に大切なことなのです。

では、どうすれば信頼関係ができるのでしょうか?これについてはいろいろ大切なことがありますが、誰でもすぐできて効果抜群の”とっておきの方法”があるのでここで紹介します。
みなさんも、ぜひ実践してください。

ひと言で言えば、それはほめることです。
親との信頼関係をつくるにはほめるのが一番です。
そして、この場合のほめ方としては次の4つがあります。

1,子どもをほめる 2,子どもに向かって親をほめる 3,親に向かって子どもをほめる 4,親をほめる

まず1つめの「子どもをほめる」についてです。
子どもは先生にほめられるととてもうれしくなります。
何か一つのことでほめられただけでも、自分に自信がついて他のことでもがんばれそうな気がしてきます。
また、心が満たされて温かい気持ちになるので、友達にも優しい気持ちになれます。

同時に、「この先生は自分のことをわかってくれる。
受け入れてくれる。認めてくれる」と感じて、先生に対する信頼の気持ちが高まります。

先生にほめられれば、子どもは家で必ず親に報告します。
例えば次のような会話が生まれるかも知れません。
「今日、先生にほめられた」「よかったねえ。何をほめられたの?」「休み時間に本を読んでたら、『あなたは本が好きなんだね。しかも、いい本を読んでるね。いい本をたくさん読む子はぐんぐん伸びるよ』ってほめてくれた」「それはよかったねえ。今度の先生いい先生だね」

たったこれだけのことで、先生に対する印象がぐっとよくなります。
親にとっては、わが子の良さをわかってくれる先生、そしてほめてくれる先生こそがいい先生であり信頼できる先生なのです。
他に何があるでしょうか?

ですから、とにかく子どもたちと出会ったらできるだけ早い時期に一人一人をほめてあげてください。

次に2つめの「子どもに向かって親をほめる」についてです。
たとえば、本読みカードや連絡帳を見ながら「あなたのお母さんは字が上手だね」とほめます。

あるいは、給食袋を手作りしてあるのを見たら、「あなたのお母さんはお裁縫が上手だね。すごくセンスがいいね」とほめます。

参観会や何かの行事でお父さんに会う機会があったら、そのあと子どもに「お父さん、かっこいいね」とほめます。
PTAの奉仕作業の次の日、「あなたのお父さんが側溝の泥を全部さらってくれたよ。○○君のお父さん、頼りになるね」とほめます。

子どもにとって、自分のお母さんやお父さんが先生にほめられることは本当にうれしいことです。
ですから家で必ず報告します。

それを聞いたお母さんやお父さんが先生に対してどういう気持ちになるか、それは言うまでもないことです。

次に3つめの「親に向かって子どもをほめる」についてです。
親にとって、わが子のことを先生からほめられることほどうれしいことはありません。

学校でのよい表れ、がんばったこと、友達に親切にしてくれたこと、あるいはその子がよくやっていることなど、何でもいいのです。

ほめにくい子もいるかも知れませんが,プラス思考で意識的にほめられるところを探せば必ず見つかります。
プロ意識をもって,ぜひ見つけてあげてください。

面談や家庭訪問など直接親に会う機会があったら、ぜひたくさんほめましょう。
こういう機会は、ほめるための機会と考えてください。

中には、このときとばかりに子どものマイナス面を言い立てる先生もいます。
でも、言っても直らないことがほとんどですし、かえって逆効果です。

というのも、親の方には先生に対する嫌な気持ちと不信感が出てきてしまうからです。
とくに、年度当初に新しい担任にこういうことを言われると親は絶望的な気持ちになります。

「これから一年間この先生か…」という気持ちになってしまうのです。

日常的にできて一番簡単なのは、本読みカードや連絡帳を使ってほめることです。
最低でも1週間に1回はほめるようにしてください。

また簡単で効果抜群なのが電話です。
子どもにいい表れがあったら、その日のうちに電話で伝えましょう。
電話なら詳しく伝えられますし、心を込めてほめることもできます。

また、電話ならその話題以外にも会話が弾むこともよくあり、お互いのコミュニケーションを深めるのにとてもいい機会になります。

次に4つめの「直接親自身をほめる」についてです。
2つめと重なるところもありますが,違ってくるところもあります。
子どもを通さずに親を直接ほめるので,2では伝えられなかったことも伝えられるのです。

例えば、「お母さん、一生懸命がんばっていらっしゃいますね」「お子さんのよいところを上手に伸ばしていらっしゃいますね」「お母さんのように、お子さんの気持ちをわかってあげられるお母さんて少ないんですよ。
お母さんがあたたかいから、お子さんも素直で優しいんですね」というように、心からほめてください。

先生たちはこういうことが苦手です。
親をほめるという発想すらない先生がたくさんいます。
でも、これは大切なことだと思います。

実は、親たちはみんな、親としてほめられたことがほとんどないのです。
親という仕事はしっかりやって当たり前と思われているからです。
家族や親戚はもちろん、世間からも先生たちからも、文句を言われることはあってもほめられたことはほとんどありません。

あるとき、私はあるお母さんを心からほめたことがあります。
そうしたら、「親になって初めてほめられました」と言われました。
親たちはみんな一生懸命やっているのですから、ぜひほめてあげて欲しいと思います。

ところで、ほめるのと並んでもう1つ大切なのが共感です。
先生たちは親から愚痴や悩みを打ち明けられることがあると思います。
そういうときは、まず共感してあげてください。

「それはたいへんですね」「困っちゃいますよね」「それは悩みますよね」というように、共感しながらたっぷり聞いてあげてほしいと思います。

これもまた先生たちが苦手なことで、すぐに「こうしてください」とか「こうしたらどうですか」などと言ってしまいがちです。
もちろん,アドバイスしてあげたいという気持ちからなのですが,共感のないアドバイスは相手にはお説教のように聞こえてしまいます。

そして、「この人に話しても私の大変さはわかってくれない。
話してもお説教されるだけだ」と感じてしまいます。
すると、腹を割って話してくれなくなります。

自分の話を先生に共感的に聞いてもらえると、相手は「この先生は私がどんなに大変かわかってくれる。この人は信頼できる」と感じるようになります。
ですから、共感を大切にしてください。
アドバイスをするとしたら、たっぷり共感的に話を聞いた後にしましょう。

このようにして、できるだけ早い段階で親とのいいい関係を築くようにしてください。
それが自分を含めて全員のためになるのです。

初出『教職課程』(協同出版)2013年6月号

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