日本には、自分の気持ちや考えをはっきり表現しないことを良しとする価値観が根強くあります。
不言実行、言わぬが花、謙譲の美徳など、多くの格言がそれを肯定しています。
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(本連載を1冊にまとめました)
もちろん、それが当てはまる場合もありますが、多種多様な価値観が同居するグローバル時代には必要かつ十分な自己表現をする能力は不可欠です。
黙っていてもわかってもらえる時代ではないからです。
では、どうすれば子どもの表現力を伸ばすことができるのでしょうか?
そのためにまず大事なのが、親子の楽しい会話を通して表現への意欲と技術を同時に高めることです。
そして、楽しい会話は親が子どもの話を共感的に聞くことから始まります。
例えば、子どもが先生に叱られた話をしたとき「ダメでしょ」などと言わずに「悲しかったね」と共感してあげることが大切です。
すると、子どもはうれしくなってもっと話したくなります。
親の聞き方が共感的なら、子どもは安心して何でも話せます。
それによって、話すことの喜びを味わい話すことへの意欲が高まります。
同時に話す技術も高まります。
また、子どもの話を聞くだけでなく親自身が豊かな話し手になることも大切です。
小言やお説教などのつまらない話ではなく、子どもが楽しく聞ける話をたくさんしてあげてください。
例えば、仕事のこと、体験したこと、見たこと、聞いたこと、読んだことなどです。
特に子どもが喜ぶのは、親自身の子どもの頃の遊び、友達、自慢話、失敗談などです。
親が話すときは表現の工夫に心がけることも大切です。
例えば、「今日は暑かった」ではなく「汗でシャツと背中がくっついて困ったよ」と描写しながら、あるいは会話をリアルに再現しながら様子が目に見えるように話してあげてください。
これが話し方の見本になり、子どもの表現の技術を高めることにつながります。
折に触れて、時事的な話題について親自身の意見を話すのもいいでしょう。
このときは、結論を先に示してから理由を挙げる頭括型やその反対の尾括型の話し方などを意識して使い分け、同時に2つの話し方の違いについても教えてあげます。
また、「…ここまでが事実で、それに対してお父さんの意見は…」のように事実と意見を区別して話す方法なども教えます。
すると、子どももこれらの話し方を使い分けらるようになり、表現の技術が高まります。そして、子どもの話の中で表現の技術や工夫が見られたら大いにほめてあげてください。
つまり、子どもの話を聞くときのポイントは、話の中身に共感することと表現をほめることの2つです。
親子の会話の次に挙げたいのが読書です。
日常的に読書をしている子は、語彙と知識が格段に増えますし、さまざまな価値観や思考方法に触れることもできます。
読書は、テレビ視聴や会話だけでは得られない深さと広がりを人の内面にもたらしてくれます。
それは、つまり表現するに足る中身を持てるようになるということでもあります。
そして、読書はその中身を的確に表現するための言葉も磨いてくれます。
さて、ここまで述べたことが表現力の土台の部分です。
グローバル時代においては、この土台の上に外国語による表現力も加えて考える必要があります。
これについても、今後さらに積極的な取り組みが必要になることは間違いないでしょう。
ただし、それも全ては土台になる部分がしっかりしていなければ意味がない、ということも付け加えておきたいと思います。
初出『子ども英語ジャーナル』(アルク)2011年8月号
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