私は、子供の頃、母親に耳の掃除をしてもらうのが大好きでした。

耳の掃除というものは、自分でするよりも人にしてもらう方が断然気持ちが良いものです。

少し緊張しながら、暖かい母の膝の上に頭を預けます。

最初は入り口から、そして段々耳の奥の方へと、耳掻きが進んできます。
耳の壁を程良い強さで耳掻きが引っ掻く、これがとても気持ち良いのです。
時々強くやりすぎて痛くなるのもまたスリルがあって良いのです。

「あった、あった、大きいのが。」
「あ、割れて半分落ちちゃった。」
などと母が実況中継することもありました。

やがて片方の耳を掘り終わると、その収穫物の耳垢を見せてもらいます。
大きいのが取れていたりすると、何とも言えずうれしかったものです。

続いて、もう片方の耳を掘ってもらうのですが、不思議なことに最初の耳に比べて格段に気持ち良いのです。

最初母の膝の上に押さえられていたので耳の中の気圧が違っているのかな、などと考えてもみましたが、真相は不明です。

そして、最後に、よく耳の絵を描くときに数字の「6」のように描かれる部分を耳掻きで引っ掻いてもらいます。
こんなところには耳垢などないのですが、気持ち良いので必ずやってもらっていました。

これが仕上げというわけです。

この耳掃除のひとときは、心休まる温かいひとときでした。
子供心に、愛情を体で感じていたに違いありません。
これは、私の原体験の一つであり、今でも心のよりどころになっています。

ところで、昨今、新聞紙上をにぎわす少年、少女の耳の中はどうなっているでしょうか?
ちゃんときれいになっているのでしょうか?
私は、自信を持ってきれいではないと予想します。
誰か、時間がある人が調べてみたら面白いだろうと思います。

さて、耳の掃除をしてやるのは、何も母親でなくても良いのです。
父親でも、おばあちゃんでも、おじいちゃんでも、お兄ちゃんでも、お姉ちゃんでも良いのです。

こういうところから、家族の絆が作られていくのだと思います。
そういう絆を感じている子は、素直に真っ直ぐに育っていくことができるのです。

私は、後何年かしたら、父や母の耳掃除をしてやりたいと思っています。
ですが、今はまだ少し照れくさくてできそうにありません。

妻の耳の掃除でもしてやろうか?
そうすれば、夫婦の絆が強くなること、間違いなしですね。

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