褒め方にもテクニックがあります。
褒め方のテクニックを意識しておくことで、その効果は倍増します。

その1
「具体的に褒める。」
具体的に褒めることで、その行いの良さを価値付けることができます。

○○さんの日記の、
「北風の音は巨人が怒っているような音だった。」
というところが良いね。
その時の様子を工夫して書いているので、目に見えるようだよ。

配膳台の上のこぼれた物を拭いてくれてありがとう。
本当に助かりますよ。

自分で明日の支度ができたんだね。
勉強の仕度も、給食の支度も自分でできたなんて、すごいよ。

その2
「抽象的に褒める。」
注意するときには、人格全体に言及するような、人格を否定するような言い方は絶対にいけません。
例えば、「ずるい子だね。」などという言い方です。
「食べたら必ず歯を磨きなさい。」と、その事を注意するのは良いのですが、それをしない子に「ずるい子だね。」と言ってはいけないのです。
注意するときは、その「事」を注意し、その「人」には言及しないのが鉄則です。

では、褒めるときはどうでしょう?
褒めるときも、その「事」を褒めて、その「人」には言及しない方が良いという人もいます。
ですが、私はその考えには反対です。
褒めるときには、その人の人格を抽象的に丸ごと褒めることも大切だと考えます。

これは、私自身の体験から自信を持って言えます。

私が子供の頃、私の母親は「智可等は優しい子だ。」とよく言ってくれました。
何か私がそれらしいことをしたときにも、特にそうでないときにも言ってくれました。
これは人格を抽象的に丸ごと褒める言い方です。
私はそれがとてもうれしかったです。
それを言われると心に明かりが灯ったような気がしたものです。
何となく自分がそういう人間なんだと思えてきたものです。
そして、もっともっとそうでありたいと思ったものです。

今は、教師として、その体験から得た褒め方を実行しています。
私は自分のクラスで「このクラスは良いクラスだなあ。」「このクラスの子はみんな優しくて嬉しいです。」「このクラスは協力が良いなあ。」などとよく言います。
すると、だんだんそうなってきます。

個人にも、「○○さんはよく気が付くね。」「○○さんは優しいね。」「○○さんはがんばりやさんだね。」「○○さんはみんなに好かれているね。」などとよく言います。
口で言ったり、本読みカードに書いたり、日記の返事に書いたりします。

親の皆さんにもそのように伝えます。
成績表の通信欄にもこのような書き方をします。
すると、だんだんその子はそういう子になってきます。

そういうものなのです。
これは私が体験済みです。

その3
「すぐ褒める」
何か良い現れがあったときは、すぐ褒めることが大切です。
心理学の用語で「即時確認の原理」というものがあります。
良い現れや適切な行動があったときに、すぐにそれを評価してやることで、同様の行動をさらに促すことができるという原理です。

特に子供の場合は興味関心はすぐ移るので、その事が心の中に大きな位置を占めている内に褒めてやることが大切です。
そうすれば、子供は褒められたなあという気持ちになります。
何日も経って本人が忘れた頃に褒めても、あまり効果がありません。

その4
「これはと思うことを、いつまでもしみじみ褒める。」
例えば・・・
「幼稚園の時に、転んで泣いている○○ちゃんを心配してずっと付いていてくれたっけね。
何て優しい子なんだろうって思ったよ。」
「3級のそろばんの試験を受けるとき、すごくがんばって練習したね。あの時、○○は根性があるなと思ったよ。」

このように、これはと思うことを時々折に触れて離すことで、子供の心に自分自身に対する良いイメージが作られていきます。
このような得難い場面は、親も子もいつまでも覚えていられるように努力することが大切です。
その時の写真や日記や記念品があれば、常時見えるところに置くと良いでしょう。

このような努力を親が意識的にすることが、実は教育なのです。
そうすれば、お説教や感情的に怒ることもなくなります。
お説教や感情的な対応は、親がやるべきことをやっていないから必要になるのです。

本当の名医は病気にならないように導くので、外科的な手術を必要としないと、中国の古典に書いてあります。
教育もそれと同じです。

その5
「理由を付けて褒める。」
例えば・・・
「毎朝玄関を掃いてくれてありがとう。おかげで、昨日突然客さんが来たときも慌てなくて済んだわ。」
「ノートや予定帳の字がとても丁寧に書けているね。丁寧に書いていると見やすいし、気持ちも良いね。」
「服に付いたジュースをすぐハンカチを濡らして拭くなんて、すごい。そうしておけば、染みになりにくいからね。」

このように、それがなぜ良いのか理由を付けて褒めることが、時には必要です。
そうすることで、そのことの価値を子供に教えることができるのです。
大人にとっては自明のことでも、意外と子供にとってはそうでないこともあるのです。
時々、なぜ子供がそうしないのかと不思議に思うことがありませんか?
それは、子供がその意味や理由を全く知らないからかも知れませんよ。

その6
「理由なしで褒める。」
いつもいつも理由付きで褒めるのは、大変です。
それに、あまり回数が多いと相手は押しつけがましく感じるものです。
時には、理由なしであっさりと褒めることも必要です。
要はバランスです。

その7
「褒め言葉のバリエーションを増やす。」
いつもいつも同じ言葉では、はっきり言ってマンネリです。
いろいろな言葉で褒めた方が新鮮で、受け取る方も喜びます。

偉いね、立派だよ、すごいね、さすが、すばらしい、お見事、やるねえ、ワンダフル、ビューティフル、大したもんだ・・・などなど

その8
「感謝の言葉も褒め言葉である。」
ありがとう、助かるよ、なども、一種の褒め言葉です。

これに関して、読者の「ほしのこ」さんから教えていただいたことがあります。
以下引用させていただきます。

以下引用====================================

行動心理学では、相手の行動を変えて欲しいときなどに、自分の感情を伝えるために、「わたしメッセージ(アイメッセージ)」を使う事を教えています。

相手に注意するときに、「あなたがこうすると、・・・」「あなたは、・・・ね。」など、「あなた」という言葉を使うことが多いのですね。
どうしても、相手を責めているように聞こえがちになります。

それを「わたし」を主語にして、自分の感情を伝え、相手の助力を求めるというものです。
これを褒めるのに使います。

たとえば、
「黒板の字がきれいに消してあると、授業がすぐに始められて、ほんとに気持ちがいいね。」
「お母さんうれしいわ。おもちゃが片つけてあると、お掃除がとっても楽なのよ。」などです。

このように、「相手の具体的な行動」「その具体的な影響」「その時の自分の気持ち」の三つを入れて作ります。
三つの順序は、特に決めなくていいでしょう。

これにより、相手は具体的に行動を起こしやすく、協力しやすくなるはずです。
また、相手が実際に行動した後でなくても、順序を変えれば、予防的に使うこともできますね。

以上引用====================================

その9
「第3者も褒めていたと伝える。」
例えば・・・
「○○は毎朝気持ちの良い挨拶ができて偉いねって、隣のおじさんが言っていたよ。」
「○○は妹の□□ちゃんの面倒をよく見るね。□□ちゃんもお姉ちゃんと遊ぶのが一番楽しいと言ってたよ。」
「友達にとても優しくて良い子だって、先生も言ってたよ。」
「毎日ちゃんと犬の世話ができてすごいね。お父さんも褒めていたよ。」

そこにいない第3者も褒めていたという言い方は、妙に真実味があるものです。
自分がいないところでも、自分についてそのような良い会話が交わされたと知ることは、とてもうれしいものです。
何となく、色々な所でそういう噂があるかのように思わせる効果があります。
大人でも、例えば、「部長も褒めてたよ。」等と言われれば、とてもうれしいのではないでしょうか?
これはとても効果的な褒め方です。
おまけに、第3者と褒められたとされる人との関係を一気に良くする効果もあります。

その10
「その子の思い入れの大きいことを褒める。」
人は誰でも、自分なりに思い入れを持って取り組んでいることがあるものです。
誰でも、それを褒められることが一番うれしいのです。
例えば八百屋は新鮮な野菜を揃えることに全精力を傾けますから、新鮮な野菜が多いねと言われればとても喜びます。
美容師ならカットの腕を褒められることが、画家なら良い絵だと褒められることが、一番うれしいのです。

子供も自分の思い入れの大きいことを褒められるときが、一番うれしいのです。
それによって、自分への自信や信頼を大きく育てることができるのです。
ところが、子供が一番思い入れの大きいことを褒められることはあまりないようです。
それはなぜでしょうか?
それは、子供が熱中することと大人の期待することは、ほとんどの場合全く別物だからです。

例えば、私が教えた子で電車や新幹線が大好きな子がいました。
その子の頭の中はいつも電車や新幹線のことでいっぱいです。
作文を書いてもスピーチをしても電車や新幹線のことです。
絵を描けば電車と新幹線が必ず出てきます。
休み時間には紙で電車を作ったり、それを走らせたりしています。
電車の種類や特徴など熟知していました。

でも、電車や新幹線の事で親に褒められたことはほとんどなかったようです。
親は呆れるばかりでした。
親の期待は、もっと進んで勉強したり授業中に発表したりすることにありましたから。
電車や新幹線のことで、褒める気など親にはさらさらなかったと思います。
ですが、ここでこそ、その子を褒めてやって欲しいと思いました。
電車や新幹線のことこそ、その子が一番自信を持っていることなのですから。
これなら誰にも負けないと、密かにその子は思っているのです。
それを親が褒めてやることで、子供の密かな思いが確信に変わるのです。

考えてみれば、電車や新幹線の種類や特徴などを熟知する能力はいつでもいわゆる勉強に転用できるものです。
それに、一つのことに熱中できること自体がとても素晴らしい資質です。
誰に言われたでもなく、自分自身でやりたいことを見つけて突き進むことができるということは、素晴らしい資質です。
それこそ、豊かな人生を切り開く基本的な才能なのです。
ですから、褒める価値は大いにあるのです。

子供が熱中していることや思い入れの大きいことを、ぜひ褒める材料にしてください。
大人の価値観からだけではなく、その子の立場に立って褒めることで、その子に大きな自信を付けさせることができるのです。

その11
「時には意外なことを褒める。」
先程の「その子の思い入れの大きいことを褒める。」と一見矛盾するようですが、これも相手の心に残るものです。

例えば、私は正式に教師に採用される前、3ヶ月間中学校で講師として国語を教えていたことがあります。
その学校には、とても指導力があることで有名なM先生がいました。
私は当時も今も最大級の尊敬の念を持っております。
そのM先生が私の授業を見てくれたことがあります。
そして、授業が終わったとき言ってくれました。
「あんた、良い声してるね。」
多分言いたいことは山ほどあったと思いますが、M先生は私の声を褒めてくれました。
他には何も言いませんでした。

その時のことを今も鮮明に覚えています。
この一言はとても意外であり、また、とてもうれしいものでした。
それまで自分の声を褒められたことは一度もありませんでした。
ですが、そう言われると何となくそんな感じがしてきました。
ここら辺が私のおめでたいところなのですが。
日々の授業が苦痛で仕方なかったのが、何となく楽しみにさえなってきたほどです。
その時から、私は自分の声に密かに自信を持てるようになりました。

自分なりに理由を見つけようと、色々考えたりもしました。
学生時代アルバイトで餃子瓜をやって声を出していたからかなとか、アパートで朔太郎や犀星や賢治を朗読して喜んでいたからかなとか・・・
その時から、本を買って発声や朗読を自分なりに練習したり、ある劇団主催の教師向けの発声法や朗読法の講習会に出たりするようになりました。
全てあの時のM先生の一言からです。
げに一言の力は恐ろしいものです。

というわけで、時には本人も思ってもいないようなことを褒めてやるのも効果的だと思います。
「声が良いね。」
などということは、本当は誰に言っても良いのではないでしょうか?
誰もそれなりに良い声なのですから。

次のような褒め方も、お薦めです。
「○○は、笑顔が本当にすてきだね。見ているとこっちも楽しくなってくるよ。人を幸せにする笑顔だね。」
「いつも元気いっぱいでエネルギーがあるね。○○を見ていると、こっちも元気になってくるよ。ありがとう。」
「プラモデルの部品がずれないでぴったり付けてあるね。何て器用なんだろう。」
「光江というのは良い名前だね。光り輝いてみんなを明るくするようになるよ、きっと。」
「耳の形がいいね。福耳だよ。福耳の人は、良いことがいっぱい起こるんだって。」
「○○は早起きで良いね。早起きは三文の得だよ。人生で得なことがいっぱいあるよ。」
「○○は運が良い子だね。キャンプに行けば晴れちゃうし、アイスを買えば当たっちゃうんだから。」
等々・・・
いくらでもあります。

ぜひ、本人が思ってもいない意外なことを褒めてやってください。
そこから、思いがけない進展があるかも知れません。
そのためには、その子の良さを見つけ出そうとする目があれば十分です。
その気になれば、材料はいくらでも見つかります。

さて、最後に、「褒めるテクニック11カ条」を再掲しておきます。
これらを意識的に使いこなすことで、褒め方が上達するはずです。
何にでもうまい下手があるように、褒め方にもうまい下手があるのです。
親の責任として、褒め方が上手くなって欲しいと思います。
プリントアウトして、どこかに張っておくと良いかも知れません。
「具体的に褒める。」
「抽象的に褒める。」
「すぐ褒める。」
「これはと思うことを、いつまでもしみじみ褒める。」
「理由を付けて褒める。」
「理由なしで褒める。」
「褒め言葉のバリエーションを増やす。」
「感謝の言葉も褒め言葉である。」
「第3者も褒めていたと伝える。」
「その子の思い入れの大きいことを褒める。」
「時には意外なことを褒める。」
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