突然ですが、問題を出します。
次のどちらの方法が効果が大きいでしょうか?

A 褒めてから注意する
B 注意してから褒める

具体的には、次のようになります。
A 
宿題をいつもしっかりやっていて、立派だね。
ノートの字をもう少し丁寧に書くと、見やすくなるよ。

B
ノートの字をもう少し丁寧に書くと、見やすくなるよ。
宿題はいつもしっかりやっていて、立派だけど。

さあ、AとBのどちらの方が子供をやる気にさせるでしょうか?

私の実感だと、Aです。

それは、なぜでしょうか?

まず第1の理由は、先に注意すると後で褒める言葉が言い訳のようになってしまうということです。
Aでは「宿題をいつもしっかりやっていて、立派ですね。」と言えたのに、Bだと「宿題はいつもしっかりやっていて、立派だけど。」という言い方にならざるを得ません。
先に注意してその後で褒めると、どうしてもそのような言い方になってしまいます。
注意したことで生じた嫌な雰囲気を埋め合わすために、慌てて褒めたという感じにならざるを得ません。
これでは、子供の側からすれば褒められた気はしません。

理由の第2は、まず褒めることで子供の心を開くことができるということです。
人は、褒められることで心が開かれ、相手に好感を持つようになります。
そして、心理的に良好な関係、いわゆるラポール(信頼関係)が形成されます。
その状態だと、何かしらの注意を受けても素直に受け入れることができるのです。
自分のために言ってくれているのだという気になるのです。

理由の第3は、心理学用語でいうところの「初頭効果」です。
例えば、初対面の時にある人が次のような自己紹介をしたとします。
CとDを比べてみてください。
CとDは言っている順番が入れ替わっただけで、内容は同じです。
ですが、受ける印象は随分違ってくるはずです。

C「私はいつも明るく元気で、少しくらいの失敗にはくじけません。今の仕事が大好きです。のんびり屋なので、忙しいのは苦手です。」
D「私はのんびり屋なので忙しいのは苦手です。今の仕事が(は)大好きです。いつも明るく元気で、少しくらいの失敗にはくじけません。」

どうですか?
Cの方が良い印象を受けたはずです。
Cは「いつも明るく元気」と「少しくらいの失敗にはくじけません」という言葉が、まず最初の第一印象を作ります。
頼りになりそうだな、という感じを聞き手に植え付けます。
聞き手は、それによって作られた印象を元に、その後の言葉を聞くことになります。
ですから、その後の「今の仕事が大好き」も「のんびり屋なので忙しいのは苦手」も、「いつも明るく元気」な人の、付属的な性質として理解されます。

Dは「のんびり屋なので忙しいのが苦手」という言葉が、第一印象を作ってしまいます。
頼りないな、という感じを聞き手に植え付けてしまいます。
ですから、その後、「今の仕事が(は)大好き」とか「いつも明るく元気で、少しくらいの失敗にはくじけません。」と言われても、言い訳のように聞こえてしまいます。

これらの事例は、心理学の初頭効果という用語で説明されます。
初頭効果とは、一番初めの印象が全体の印象を決める確率が高いというものです。
これは、いろいろな場面で形を変えて表れますが、原理は同じです。
初対面の自己紹介でも、講演会で話を聞く場合でも、慣れ親しんだ親子の間でも同じです。
また、勉強で何かを覚える場合でも同じで、最初に出てきて覚えたものが一番よく頭に残ります。

ところで、初頭効果と並んで論じられるのが親近効果です。
親近効果とは、一番最後のものが印象に残るというものです。
ですから、上手な講演者は一番最初と最後にとっておきの話をします。
勉強でも、最初に出てきたものの次によく頭に残るものは、最後に出てきたものです。
これら初頭効果と親近効果をよく組み合わせて自己紹介するとしたら、ベストのものは次のEのようになります。

E「私はいつも明るく元気で、少しくらいの失敗にはくじけません。のんびり屋なので、忙しいのは苦手です。今の仕事が大好きです。」

子供に話をするときにも、このような原理を意識していると良いと思います。

一番最初に書いたAの言い方を、もう一度見てみましょう。
これは、初頭効果を意識した言い方です。
A 
宿題をいつもしっかりやっていて、立派ですね。
ノートの字をもう少し丁寧に書くと、見やすくなるよ。

ですが、これはまだ親近効果を生かしてはいません。
親近効果を意識してもう一言付け加えるとしたら、どう言えば良いのでしょう?
皆さん、考えてみてください。

F
宿題をいつもしっかりやっていて、立派ですね。
ノートの字をもう少し丁寧に書くと、見やすくなるよ。
この調子でいけば大丈夫だよ。

このように言えば良いのです。
これなら、こちらが言うべきことをきちんと言いながら、しかも相手には好感を持って受け入れてもらえます。
このような言い方ができれば、子供をドンドン伸ばすことができるのです。
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