今現在私は4年生の担任なので、子供たちにローマ字を教えています。(2004年10月時点)
子供たちはローマ字の勉強が大好きです。

今まで読めなかった文字が読めるようになり、書けなかった文字が書けるようになることが、子供たちはとてもうれいしいのです。

一つずつ覚えていくことに、勉強の楽しさを感じているようです。
初めて平仮名や片仮名を覚えたときの喜びに似たものを、感じているのだと思います。
ですから、次の日の予定を書く黒板に私が「ローマ字」と書くと、大喜びです。

ところで、小学校では、4年生で初めてローマ字を勉強します。
そして、その後、5,6年生ではローマ字の勉強はしません。
中学生になれば英語になりますから、ローマ字はやりません。
ですから、正式にローマ字を勉強するのは、一生の中で4年生の一時期だけということになります。

なぜかというと、文部科学省の出している学習指導要領に、次のように書かれているからです。
「第4学年においては,日常使われている簡単な単語について,ローマ字で表記されたものを読み,また,ローマ字で書くこと。」

4年生のところにはこう書かれていますが、5,6年生や中学校のところにはこの記述はありません。
学校の全てのカリキュラムはこの学習指導要領を基準にして組み立てられるので、5,6年生や中学校ではローマ字を勉強しないのです。

ところで、4年生で勉強するといっても、国語の授業の中で少し行うだけです。
少しとはどれだけかというと、年間わずか6時間です。
今現在、私は4年生の担任なので、今日もローマ字を教えてきました。
現場で教えている者の実感としては、授業時間数が少なすぎるというのが正直なところです。

ローマ字は初めて書くという子がほとんどですから、まず「あa、いi、うu、えe、おo」から始まって「わwa、をwo、んn」まで教えます。
これだけで、約50個です。
しかも、小文字と大文字の両方を教えなければなりません。
その際、出てくるアルファベットの正しい書き順も教えなければなりません。
ですが、この辺まではほとんどの子が楽しそうに勉強します。

子供たちにとって難しくなるのが、「しゃsya、しゅsyu、しょsyo」「きゃkya、きゅkyu、きょkyo」などの拗音が出てくる頃からです。

さらに難しくなるのが、ローマ字には複数の書き表し方があるということを教える頃からです。
例えば次のようなものです。
「し」は「si」とも「shi」とも書く。
「ち」は「ti」とも「chi」とも書く。
「ふ」は「hu」とも「fu」とも書く。
「しゃ」は「sya」とも「sha」とも書く。
「ちゃ」は「tya」とも「cha」とも書く。
(だけど、「tha」とは書かない)

促音、つまり小さい「つ」もつまずきの原因になります。
「きって」は「kitte」というように、次にくる字を重ねて書くという決まりになっています。
これはまだ分かりやすい方です。
ですが、次のものはかなり分かりにくいようです。
「ch」の前のつまる音は「t」を使い「tch」になります。
つまり、「マッチ」は「matti」か「matchi」になり、「macchi」にはならないということです。
次のようなものもあります。
「ドキッ」のように最後に小さい「つ」がくる場合は「doki’」と書きます。

長音、つまり伸ばす音も使い分けが難しいものの1つです。
長音は母音の上に長音符号の「^」をつけます。
「伊藤」は「Ito」の「o」の上に「^」をつけます。
「itou」とは書かないのです。
「東京」はよく「Tokyo」と書かれていますが、正式には間違いです。
ですが、「大分」は「Oita」の「O」の上に「^」をつけるものと「Ooita」の両方が認められています。
「とうきょう」は伸ばす音が「う」なのに、「おおいた」は伸ばす音が「お」だからです。
だったら、「お」で伸ばす場合は「^」を使わないとした方がまだはっきりすると思うのですがどうでしょうか?

また、慣例として、「i」の長音だけは「ii」書き表すことになっています。
つまり、「飯田」は「Iida」になります。

さらに子供たちが混乱するのは次のものです。
「ん」は「n」を使うが、はねる音「p、b、m」の前の「ん」は「n」ではなく、「m」を使います。
ですから、「さんぽ」は「sanpo」ではなく「sampo」であり、「とんぼ」は「tonbo」ではなく「tombo」になります。
詳しく書けば、まだまだあります。

このように複雑になっている原因の1つとして、ローマ字には3つの表記法が並立しているということが挙げられます。
つまり、微妙に違う標準式(修正ヘボン式)、日本式、訓令式の3つが並立しているのです。
これらは歴史的な経緯、音声学的な背景、英語との関係、社会的な慣例の面などから、それぞれに得失があります。
それで、どれか1つに絞れないまま今日に至っています。
ところが、この頃はさらにワープロソフトとの関係も出てきて、ことを複雑にしています。

ワープロソフトで「itou」と入力すれば「伊藤」になりますが、「ito」の「o」に「^」をつけて入力するということはそもそもできません。
「macchi」と入力すれば「マッチ」になりますが、「matchi」と入力しても「マッチ」にはなりません。
「tonbo」と入力すれば「とんぼ」になりますが、「tombo」と入力しても「とんぼ」になりません。
「ドキッ」と表記するためには「dokiltu」か「dokixtu」と入力しなければなりません。
この小さく書く字を表す「l」や「x」は、従来のローマ字表記法にはないものです。
つまり、従来のローマ字表記法とワープロソフトのローマ字入力は、違ってきているのです。

ローマ字のテストなどで「東京」を「toukyou」と書いたら従来はペケでしたが、これからはもうペケにするべきではないと思います。

さて、このように複雑なローマ字をわずか6時間で全部教えることになっているわけです。
これはとても無理な話です。
最初は新しい文字を覚えるということで喜んでやっていた子供たちですが、だんだん苦手意識を持ち始める子が出てきます。
そこで、なんとか授業時間の不足を補う工夫が必要になります。

その1つとして、私は、国語の授業だけではなくいろいろな場面でローマ字を使うようにしています。
例えば、毎日書く次の日の予定をローマ字で書くのです。
「国語」を「kokugo」と書き、「日記」を「nikki」と書くようにします。
一度に切り替えるのは無理なので少しずつローマ字を増やしていき、最終的には全部ローマ字で書くようにします。
移行期には、「自分で書いた予定のローマ字が読めなくて困った」という報告がよく来ます。

プリントなどに自分の名前を書くときにも、ローマ字で書くようにさせます。
子供たちがそれを分けるときには、ローマ字で書かれた友達の名前を読みながら分けることになり、勉強になります。

いろいろな教科で黒板に字を書くときにも、その一部をローマ字で書くこともあります。
例えば、算数で「問題」と書くときに「mondai」と書きます。
例えば、理科で「実験」と書くときに「jikken」と書きます。

ただ、あまり性急にやりすぎると、ついていけずに自信をなくす子が出てきます。
子供の様子を見ながら進めることが大切です。

かなり書けるようになってくると、日記をローマ字で書かせることもあります。
これは、とても力が付きます。

ローマ字カルタもやります。
とにかく、あの手この手を繰り出すわけです。

パソコンのワープロソフトを使ってのローマ字入力も、とても力が付きます。
総合的な学習の時間を利用して、情報教育の一環としてこれを行っている学校もかなりあります。
ただ、問題はここでも時間数の不足です。
総合的な学習の時間を割り当てるといっても、せいぜい4,5時間です。
また、多くの学校ではパソコンが少ないので子供に待ち時間が生じることになります。

教室内のいろいろな物の名前をローマ字で書いて張る、というのも楽しいです。
例えば、「kabin」と書いて花瓶に張り、「haizendai」と書いて配膳台に張ります。
こうすると、日常的にローマ字を目にし、自然に読む練習ができます。

以上を参考にして、家庭でもいろいろ工夫してみるといいと思います。
できたら、学校でローマ字を勉強する前から少しずつ親しんでいくといいと思います。
生活や遊びの中で、楽しみながらローマ字に親しむ楽勉を工夫するといいと思います。
平仮名や片仮名を覚えたときのような、ローマ字積み木があるといいですね。
もうあるのかも知れませんが、もしなければ、私が作りたいくらいです。

ローマ字カルタはあるのでしょうか?
これは手作りですぐできますので、私が作ったローマ字カルタを参考にして作ってみることをお勧めします。
私が作ったローマ字カルタは、次のようなものです。

大きく分けて、正しい札とだまし札の2種類があります。
正しい札の裏には「matchi」と書いてあり、表には「マッチ」と書いてあります。
だまし札の裏には「macchi」と書いてあり、表には「あかんべえ」の絵が描いてあります。
机に並べるときは、裏を出しておきます。
私が、「マッチ~」と読み上げると、子供たちは「matchi」の方を取ります。
だまし札を取ってしまうと、あかんべえされるということになります。
このカルタで遊べば、ローマ字の複雑な表記が遊びながら身に付きます。

家の中にある物の名前をローマ字で書いて張るというのも、やってみてください。
親子で楽しみながらやるといいですね。