小学4年生の前半で「2位数÷2位数」の筆算を勉強します。
具体的にいえば、「92÷18」などです。
それをもとにして、小学4年生の後半で「3位数÷2位数」の筆算を勉強します。
「927÷18」などです。
この2つが、子供たちにとってなかなか難しいのです。

とくに、手続きの複雑な「3位数÷2位数」に手こずる子が多くいます。

ところで、算数でよく「4年生の壁」ということがいわれます。
その意味は、4年生になると急激に算数が難しくなり、付いて来れない子が増えるという意味です。
私が見るところでは、「4年生の壁」の中で最大のものが、この後半で勉強する「3位数÷2位数」の筆算です。

例えば「927÷18」では、まず、92の中に18がいくつ入るかという見当をつけるのが難しいのです。
つまり、4年生の前半でやる「2位数÷2位数」がここで使われるのです。
大人でも、すぐには出てきません。

見当をつけるのには2つのやり方があります。
1つ目は概数の考えを使うやり方です。
92を約90と考え、18を約20と考えて、90の中に20がいくつ入るか考えるのです。
すると、4という数が出てきますので、仮の商として4を立てます。
次に、18と4をかけて、72という数が出てきます。
次に、92から72を引くと、20という数が出てきます。

ところが、20は割る数の18より大きいので、仮の商を1増やして5にしなければなりません。
そこで、最初からやり直しということになります。
今までの計算を消しゴムで消して、再スタートです。
18と5をかけて、90という数が出てきます。
次に、92から90を引くと、2という数が出てきます。
2は割る数の18より小さいので、仮の商の5でよかったということになります。
この後、1の位の7を下ろして、27を18で割るというように進みます。

仮の商の見当をつけるもう1つのやり方は、次の通りです。
まず、92と18の1の位の数である2と8を指で隠します。
そして、9と1だけに注目して、9の中に1がいくつ入るかと考えます。
すると、9という数が出てくるので、それを仮の商に立てます。
そして、18と9をかけて92から引くという先程と同じ作業を始めます。
これは、当然引けないわけですから9ではダメということになります。
この問題の正解は5なのですから、9を試した後8,7,6,5というように延々と試していかなければなりません。

こう見ると、1つ目の概数の考えを使うやり方の方が優れているように見えますが、そうでない場合もあります。
例えば、「884÷31」などでは、指で隠すやり方の方が、早く正しい答えを見つけることができるのです。
それに、さっと概数を見つけられない子には、このやり方の方が分かりやすいともいえます。

私の学校で使っている教科書には、このやり方が出ていますので、まずこれを教えます。
ですが、私自身は、概数を使う方がうまくいく場合が多いと思っているのでそれも指導しています。
指で隠すやり方だと、一発で答えが出ることが少なく、何回もやり直すことが多くなるというのが実感です。

ところで、なぜ長々とこの筆算のやり方を説明してきたかというと、この問題の難しさを理解していただきたいからです。
大人にとっては、それほどではないかも知れませんが、小学4年生の子供にとってはこの筆算はかなり難しいのです。

まず、商の見当をつけるのが難しいし、商の見当をつけて仮の商を立てても、1回でそれが合わないことの方が多いのです。
従って、仮の商と割る数をかけるという計算を何回か繰り返し、その都度、割られる数からの引き算もやらなければなりません。
場合によっては、4回くらいやることもあります。

多くの子供たちが、ここで計算ミスをしてしまいます。
ここで、絶対に必要なのが、基本的な足し算、引き算、かけ算、割り算の能力です。
この中のかけ算と割り算の能力のもとになるのが、九九の能力です。
これは商の見当をつけるときにも、仮の商と割る数をかけるときにも必要です。

90の中に20がいくつ入るかということを考えるときにも、9÷2の答えがさっと出なければなりません。
18と4をかけるときにも、4×8=32という九九がさっと出なければなりません。

大切なことは、さっと出るということです。
複雑な計算をしているときに、さっと九九の答えが出てこないと、もうそれだけで子供は嫌になってしまいます。
何回も何回もやり直すこともあるので、いちいち九九で考え込んでいるととても時間がかかります。
そのうちに、複雑な手続きの手順を間違えてしまいます。

答えがさっと出るようにするためには、九九の完全制覇がぜひとも必要です。
九九の完全制覇とは、上がり九九、下がり九九、ばらばら九九がどれも完全にできるということです。
上がり九九とは、2×1から始まって9×9で終わる九九のことです。
下がり九九とは、9×9から始まって2×1で終わる九九のことです。
ばらばら九九とは、問題が順番通りでなく、ばらばらに出てくる九九のことです。
3×4の次に8×7が出てきたりするものです。

このばらばら九九に瞬間的に答えを出せることが、とても大切です。
なぜなら、複雑な筆算をしているときに例えば8×7が出てきたら、56と瞬間的に答えが出てくる必要があるからです。
いちいち8×2=16、8×3=24・・・などとやっていては、到底複雑な筆算では間に合いません。
ところが、子供たちを見ていると、けっこう多くの子が口の中でこれを唱えながらやっています。
小学2年生を終わった段階で、ばらばら九九に瞬間的に答えられるようにしておくと、後がとても楽になります。

先程の3位数÷2位数の筆算でも、九九が完全ならとても楽になります。
仮の商を立てたりそれが合っているかかけ算で確かめたりするときに、いちいち書かなくても頭の中である程度計算できるからです。
つまり、部分的な暗算です。
この部分的な暗算ができると複雑な筆算がとても楽になるのです。
そのためには、九九の完全制覇が絶対条件です。

では、どうしたら、九九の完全制覇ができるのでしょうか?
まずは、上がり九九の完全制覇です。
これをやるときに大切なことは、語尾まではっきり言わせることです。
3×9=27のとき「さん、く、にじゅうしち」の最後の「しち」をはっきり言わせることです。
これがいい加減だと、いつの間にか「さん、く、にじゅうし」になってしまいます。
7×4=28のとき「しち、し、にじゅうはち」の最後の「はち」をはっきり言わせることです。
これがいい加減だと、いつの間にか「しち、し、にじゅうしち」になってしまいます。

次に、下がり九九の完全制覇です。
ばらばら九九に入る前にこれをやっておくと、ばらばら九九が出やすくなります。
上がり九九と同じくらい、完全に滑らかに言えるようにするといいでしょう。

次に、ばらばら九九の完全制覇です。
九九カードをばらばらにしたもので練習すると、とても効果があります。
ばらばら九九のプリントも効果的です。
市販のものでも、手作りでもいいのでたくさんやらせるといいと思います。
百ます計算も、このばらばら九九のいい練習になります。

いずれも、タイムを計り得点もつけながらやると、チャレンジ精神が刺激されていいと思います。
なんといっても、速く正しくできることが大切ですから。
どの学校でもあの手この手でやっていると思いますが、九九の完全制覇を成し遂げるためには、家庭での取り組みも絶対に必要です。

この文章の最初に、九九の完全制覇が必要なものとして割り算の筆算を挙げましたが、分数での例も挙げておきます。
例えば、「異分母分数の足し算」と「異分母分数の引き算」もなかなか難しいものです。
11/12+5/8などは、分母の12と8の最小公倍数である24をさっと見つけなければなりません。
子供たちは、これがなかなか見つけられないのです。

また、分数でよく出てくる約分もかなり難しいです。
24/36の最大公約数が12だとさっと分かれば、一発で約分ができます。
そうでないと、分母と分子を2で割って、また2で割ってということを繰り返すことになります。

では、最後に、九九の完全制覇が求められる学習を並べて紹介しておきます。
小学校だけでも、これだけたくさんあるのです。
「2桁のかけ算の筆算」「割り算」「あまりのある割り算」「面積」「分数」「小数のかけ算」「倍数と約数」「割合」「分数のかけ算」「分数の割り算」「異分母分数の足し算」「異分母分数の引き算」「倍と割合」「比」などです。
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