「うちの子は勉強ができません。どうしたらいいでしょうか?」
今まで、何度このような質問を受けてきたか分かりません。
親にとっては、切実な問題だと思います。
同じような悩みを持っている親は、何十万、何百万といるはずです。
公立小学校で、毎日40人近い子供を教えているとその悩みはよく分かります。

一を聞いて十を知る子供もいます。
十を聞いて一を知る子供もいます。
新しい漢字を10個覚えるときに、2,3回書けば全て覚えられる子もいます。
10回書いても、半分しか覚えられない子もいます。
20問の引き算を3分でできる子もいます。
30分かかって、半分しかできない子もいます。

このように勉強ができる子とできない子がいるのは、事実なのです。
そこで、私が一番に言いたいことは、「決してそのことでしかったり怒ったりしないでください」ということです。
勉強ができない子をしかったり怒ったりしても、何一つ解決しません。
10回書いて半分しか覚えられない子を、しかったり怒ったりしても、決してできるようにはならないのです。
20問の引き算を30分かかって半分しかできない子を、しかったり怒ったりしても、決してできるようにはならないのです。
その子は、なにも好き好んでそうなっているのではないのです。
その子も、どんどん漢字を覚えたりどんどん計算を解いたりしたいのです。
でも、そのようにできない自分がいるのです。
そういう子に対して、怒ったりしかったりする親や教師がけっこうたくさんいます。
「しかる」とは、広辞苑によると「声をあらだててとがめる」ことです。
大辞林によると「相手のよくない言動をとがめて、強い態度で責める」ことです。
そういう子に、声をあらだててとがめたり、強い態度で責めたりしていいのでしょうか?
いいえ、そんなことは、決してしてはいけないのです。
それは、体の小さい子に、体が小さいといって怒ったりしかったりするのと同じです。
それは、走るのが遅い子に、遅いといって怒ったりしかったりするのと同じです。
それは、とても非道で失礼なことなのです。
もし、私がピアノが弾けないからといって怒られたりしかられたりしたら、ものすごく嫌です。
みなさんも、何か苦手なことで怒られたりしかられたりしたらどうですか?
とても嫌な気持ちがすると思います。
ですから、こういうことで、怒ったりしかったりしてはいけないのです。
子供が何か人間的に許されないことをしたとか、してはいけないことをしたとか、そういうときは、怒ったりしかったりすることも必要かもしれません。
でも、勉強ができないとか、何かができないとかを理由に怒ったりしかったりしてはいけないのです。
これは、子育ての鉄則の1つです。
ですから、「うちの子は勉強ができません。どうしたらいいでしょうか?」という質問への一番目の答えは、こうです。
「決してそのことで怒ったりしかったりしないでください」

それに、怒ったりしかったりするのは、ただの親や教師のストレス解消に過ぎません。
子供ができないとき、それを目の当たりにすると、親や教師は心中穏やかではありません。
まず、その子ができないのは自分に責任があるという考えが必ず生じます。
今までいろいろ言ってきたのに、または、いろいろやってやってきたのに子供はなかなか答えてくれていないという気持ちにもなります。
これからもっといろいろやってやらなければ、という気持ちにもなります。
でも、具体的に何をどうしたら成果が出るのかよく分かりませんし、また、やったとしても成果が出るかどうか疑わしいという気持ちにもなります。
解決には時間がかかりそうな問題だということも、感じざるを得ません。
このようないろいろなことが、瞬時に頭の中を走り回るのです。
文章にすると長いのですが、実際は一瞬です。
一瞬にして湧き起こるこれらの複雑な気持ちや考えが、大きなストレスになるのです。
そして、そのストレスの原因になったのは、今目に前にいる自分より弱い存在である子供です。
ですから、ストレスのマグマは一気に子供に向かって吐き出されます。
相手が大人だったり全くの他人だったら待ったがかかりますが、子供ですからその必要はありません。
それが、子供を怒ったりしかったりすることの正体なのです。

怒ったりしかったりするのは、子供のためを思っているからだという人がいますが、決してそうではありません。
それは、ただ単に、自分の感情のコントロールができないだけなのです。
自分の感情を入れておく器が小さいだけなのです。
もし本当に子供のためを思っているのなら、そのストレスを子供にぶつけるようなことはしないはずです。
もっと冷静になって、これから何をすれば本当に子供のためになるのかを真剣に考え始めるはずです。
これが成熟した大人の取るべき道なのです。
というわけで、一番目の答え「決してそのことで怒ったりしかったりしないでください」を頭に入れた上で、次に進むようにしてください。

それでは、次にどうしたらいいのでしょうか?
次に必要なのは、子供がどこでつまずいているかを冷静に分析することです。
例えば、算数を例に考えて見ましょう。
「19/36+11/24」という分数の足し算ができないとします。
それが、一体なぜできないのかをよく調べることが大切です。
そして、通分ができないということが分かったとします。
さらに、細かく見ていくと、通分に必要な九九に充分な習熟をしていないなどということが分かるかもしれません。
または、九九はできるけれども、12×2、12×3、12×4とか13×2、13×3、13×4などというような、2桁×1桁の暗算ができないということが分かるかも知れません。
それが分かれば、次にやるべきことは自ずから明らかになります。
つまり、そのつまずいているところをできるようにさせることです。
それには、練習しかありません。
地道な反復練習です。
一番いいのは、親が問題を作ってやることです。
近頃は、パソコンのプリンター用に白いきれいな紙が安く売られています。
それを1〆買ってくれば1000枚あります。
1日2枚やっても500日分です。
そこに問題を作ってやってください。
その子のつまずきに合った最適な問題を作ってやってください。
親ならそれができるはずです。
「その子のつまずきに合った最適な問題」というのが、一番効果的なのです。
例えば、その子が、15×2,15×3,15×4などは暗算でできるけど、16×2,16×3,16×4のところでできないとします。
それなら、その子に応じて16×○の問題をいくつでも作ってやることができるのです。
反対に、その子ができているところは軽く扱うということもできます。
市販の問題集では、このようなことは不可能です。
市販の問題集が「その子に合った最適な問題」を出し続けることは、不可能です。

繰り返しますが、できないところをできるようにするには地道な反復練習が必要です。
しかも、それは成果がなかなか見えてこないものなのです。
というのも、簡単に成果が出るようなものなら、初めに勉強したとき既にできるようになっているはずだからです。
ですから、ここで、最初に戻って、「決してそのことで怒ったりしかったりしない」ということを思い出す必要があるのです。
私がいつも言うことですが、成果を求めすぎず、やるべきことを淡々とやるということです。
すぐにできるようにはならないのです。
そして、それは、その子のせいではないのです。
その子もできたいと思っているのです。
そう思っていても、できないのです。
大人が「なぜこんなことができないのか」と思うようなことが、その子にはできないのです。
ですから、決してイライラした素振りを見せたり、怒ったりしかったりしないでください。
多くの子供に成り代わってお願いします。
私はそういう子をたくさん見てきました。
どうしても問題が解けない・・・
どんなに考えても分からない・・・
隣にいる先生がイライラしている・・・
隣にいる親がイライラしている・・・
子供にとって、こんなに辛いことはありません。

今、私は、「つまずいているところをできるようにさせること」について書いてきました。
成果を求めすぎずに、やるべき努力を淡々とやり続けてください、とも書きました。
そういう気持ちで、ぜひ粘り強く続けてください。
というのも、子供は突然できるようになることもあるからです。
私は、このような例をたくさん見てきました。
例えば、ある2年生のこの場合はこうでした。
その子は、1年生で勉強した8+7のような繰り上がりのある足し算が、2年生になってもなかなかできませんでした。
それで、その子の親は、毎日算数ノートに問題を書いて子供にやらせていました。
来る日も来る日も、休まずにやりました。
その子が特に苦手な8+5、8+6、8+7、7+5、7+6、などは、繰り返し繰り返し問題に出していました。
なかなか成果が出ませんでしたが、2学期の終わり頃から変化が出てきました。
それまでは、8+5などが出ると、指で数えてやっていたのですが、さっと答えが出るようになってきたのです。
解くところを見ていて分かったのですが、どうやら、答えを暗記してしまったようなのです。
例えば、かけ算で7×8=56というのは、みんな暗記しているわけです。
それと同じように、その子は、7+8=15と暗記してしまったのでした。
それで、急にできるようになりました。
これは、成果を求めすぎずに、しかし諦めずに、淡々と努力を続けた結果こうなったのです。
ところで、以上のことと並行して進めるべきことがもう1つあります。
つまずいているところをできるようにさせることと並行して進めるべきことが、もう1つあるのです。
それは、その子の長所を伸ばすことです。
好きなこと、得意なことをどんどん伸ばしてやることです。
前者は、マイナスをゼロに戻すことであり、後者は少しのプラスを大きなプラスに伸ばすことです。
前者は補修であり、後者は創造です。
私は、この後者に力を注ぐことで伸びた子をたくさん知っています。
前者だけだと、どうしても限界があります。
というのも、先ほど書いたように、なかなか成果が現れないことが多いからです。
特に、勉強全般が苦手という場合、なかなか成果が現れないことが多いというのが現実です。
それに、苦手なことをやるというのはかなりの苦痛でもあります。
それに対して、後者は、もともと好きなことなので楽しんでやれます。
楽しんでやっているうちに、成果がどんどん出てきます。
そして、だんだん自信が付いてきます。
これだけは、誰にも負けないという自信が付いてくるのです。
これが大きいのです。
ところで、私がいつも懇談会や家庭訪問でこのような話をすると、多くの親がこう答えます。
「そうはいっても、うちの子には、特に得意なことなんかないみたいだけど・・・」
「そうですか・・・特に得意ということでなくてもいいんですよ。ちょっと好きなこととか、よく楽しんでやっていることとかでいいんです」
「ううん・・・」
「学校の休み時間などには、よく自由画帳に絵を描いていますよ」
「ああ、うちでもよく描いてますよ。でも、たいした絵じゃないですよ」
親との会話は、だいたいこのようになります。
その子が絵を描くのが好きだったら、それを大いに褒めて伸ばしてやってほしいと思います。
大人から見てたいした絵には見えなくても、そんなことはどうでもいいのです。
大切なのは、その子が絵が好きで、よく描いているという事実です。
他人に比べて特に得意というわけでなくても、その子の中で好きというだけで、十分なのです。
「上手だね!」
「ここの色の変化がいいね」
などと、大いに褒めてやってください。
この絵の例は、ほんの1例です。
要するに何でもいいのです。
ちょっと好き、ちょっと得意というだけで、十分なのです。
それを伸ばしてやるのが大人なのですから。

最後に一言。
勉強ができない子には、ぜひ、楽勉の環境を整えてやってください。
楽勉は一見遠回りのようですが、実際は一番の近道なのです。
生活や遊びの中で楽しみながら勉強できる楽勉こそが、勉強ができない子をできるようにするための、一番の近道なのです。

楽勉については、このメルマガのバックナンバーや拙著「『親力』で決まる!」「『プロ親』になる!」などを参考にしてください。
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