そして、それを書きながら言うとさらに効果があります。
これは最新の科学的研究で実証されています。
今回は、この科学的事実をうまく利用する方法について考えてみたいと思います。
例えば、子供がよく間違える漢字に「年」という漢字があります。
この漢字の最後の縦棒を、上に出してしまう子がたくさんいるのです。
そのようなとき、次のようにすると効果があります
1,まずその字を書き直す
2,その字を何回か書いて覚える
3,「『年』は上に出ない」と10回言う
4,「『年』は上に出ない」と言いながら5回書く
1と2は、普通によくやられていると思いますが、3と4はあまりやられていないと思います。
でも、このように、気を付けること自体を文にして言ったり書いたりすることは、とても効果があるのです。
ただ漫然と「年年年年年年年年年年」と10回書いても、気を付けるべきポイントは意外と子供の頭に残らないものです。
というのも、ただ機械的に書いているだけだからです。
ですから、そのときは上に出ないように書いていても、しばらくしてテストするとまた上に出して書いてしまうということになりがちなのです。
「『年』は上に出ない」と声に出して言ったり書いたりすることで、ポイント自体が頭に刻み込まれることになるのです。
書くのが面倒な場合は10回言うだけでも、かなり頭に残ります。
さらに、これをリズムのある文にするとさらに効果があるようです。
一番いいのは七五調です。
例えば、「『年』は上に出ない」は七五調ではないので、リズムという点では今ひとつです。
そこで、「『年』という字は上でない」にするのです。
「ネントイウジハ ウエデナイ」ということで、七五調になります。
この他にも、例えば、次のようなものがあります。
・田んぼの田の字は縦が先
「田」の第3画は縦ですが、横を先に書いてしまう子がけっこういます。
・申す車は縦が後
「申」と「車」は縦が一番最後です。
・貫く串はいつも後
「申」「車」「半」「事」を串のように貫く縦画はいつも最後です。
このようなものは、昔からいくつか作られています。
有名なものには、次のようなものがあります。
・瓜に爪あり爪に爪なし
「ウリニツメアリ ツメニツメナシ」ということで、七七のリズムです。
これは、「瓜」という字の第6画の点を爪に例えているのです。
つまり、「瓜」には点があるけど「爪」には点がないということを覚えておくためのものです。
・訪問に口あり、専門に口なし
リズム的には今一つですが、一度これを覚えておけば一生間違えずに済みますね。
私も度々間違えてきましたので、これを杉本さんという人に教わったときは、すぐに10回言って頭に刻み込みました。
私は、今これを書きながら、次のように変えるともっとイメージが広がって面白いかもしれないと思いました。
「訪問者に口あり、専門家に口なし」
・キロキロとヘクトデカけたメートルがデシにおわれてセンチミリミリ
これは算数の補助単位を覚えるためのもので、五七五七七になっています。
キロは1000、ヘクトは100、デカは10、デシが0.1、センチが0.01、ミリが0.001を表します。
長さをもとにすると覚えやすいということで、1のところにメートルが入っているのだと思います。
・いい国作ろう鎌倉幕府
源頼朝が鎌倉幕府を開いた年(1192年)を覚えるためのものです。
これも10回声に出して言っておけば、一生忘れないのではないでしょうか?
ついでに、私が作ったものをもう1つ紹介いたします。
・鉄道は金を失う歩いてけ
これも、五七五になっています。
ところで、この方法は、勉強のときだけでなく、生活のいろいろな場面で使うことができます。
例えば、私が学校の休み時間に廊下を歩いているとき、保健の先生に呼び止められてこう言われたとします。
「3時間目の体重測定のときに、子どもに保健カードを持たせてきてくださいね」
そこで、私は、「はい、分かりました」と調子よく返事をしたとします。
でも、その後、教室に行くまでにいろいろなことが起こり得ます。
例えば、去年教えた子と出会って話をしたり、他の先生に研修のことで話しかけられたりと、いろいろなことが考えられます。
それで、教室に着くころには、すっかり忘れてしまっているということが往々にしてあります。
実際、実によくこういうことがあります。
そこで、私は、保健の先生に言われたときに「保健カードを持たせる」と10回言うようにしています。
すると、教室に着いたときにもかなりの割合で覚えているのです。
私は、これで何度も救われています。
メモを取れないときやメモを取ってもそれを見るのを忘れてしまいそうなときなどには、特にお勧めです。
というわけで、これを子どもたちの指導にも使っています。
例えば、朝、花に水をやるのを忘れて外に遊びに行ってしまう子には、次のように10回言わせます。
「遊ぶ前 花に水やり がんばろう」
もちろん、毎朝花に水をやることの大切さを分からせることがまずもって大切です。
でも、分かっているのについつい忘れてしまうという場合もあります。
その場合には、この10回言う方法が効果を発揮します。
朝、宿題を提出するのを忘れてしまう子には、「宿題は 学校着いたら すぐに出す」と10回言わせます。
私の学校では、給食の配膳台を拭くときに、水拭きをしてから消毒液で拭くことになっているのですが、その順番を反対にしてしまう子がときどきいます。
その場合には、「水拭きの 後で仕上げの 消毒だ」と10回言わせます。
そして、ときどき、私は次のように子どもたちに言います。
どうですか?
10回言うと頭に残るでしょう?
勉強で覚えたいことでも、生活で気をつけたいことでも、10回言うと頭に残るんだよ。
だから、先生に言われたときだけでなく、自分で覚えたいことや気をつけたいことがあるときには、自分で10回言ってみるといいね。
10回で足りないときは、20回、30回と増やせば、もっともっと頭に残るんだよ。
これは絶対に忘れてはいけないというときは、100回言ってごらん。
そうすれば、かなり効き目があるよ。
さらに!
それを紙に書いて覚えれば、ものすごい効き目があるんだよ。
これは絶対に覚えるぞという強い気持ちで、紙に10回書いてごらん。
そうすれば、絶対に覚えられるからね。
このように子どもたちに言っていると、自分でもやってみる子が出てきます。
「先生、先生、わたし昨日お風呂に入りながら『明日水着を持っていく。明日水着を持っていく・・・』って、50回言ったんだよ」
「それはすごいね」
「だって、せっかくのプール開きなんだもん。忘れて見学になったら悲しすぎでしょ」
「それなら、水着をカバンのところに一緒においておけばいいのに」
「おいてあったんだけど、それでもいつもの癖でカバンだけ背負って出かけちゃうかもしれないでしょ」
「なるほど、なるほど」
「わたし、そういうことがよくあるから」
親からこういう連絡をもらったこともあります。
昨日の朝、身支度をしながら、うちの○○がブツブツ、ブツブツ何か言っているので、何を言ってるのかこっそり聞き耳を立ててみました。
そうしたら、「保健カードを取りに行くとき、□□ちゃんを誘う」と言っているのが分かりました。
それで、話を聞いてみると、前の日に保健係の仕事を1人でやってしまったら□□ちゃんに怒られたんだそうです。
「なんで1人でやっちゃうの?わたしが仕事できなくなっちゃうでしょ。行くときには、誘ってよね。」と言われたそうです。
それで、朝学校に行く前に10回言って頭に刻み込んだんだそうです。
これを聞いて、私は、子どもたちにもいろいろな気苦労があるのだなと思いました。
頭に刻み込もうと、一生懸命ブツブツ言っている姿を思い浮かべて、「人生がんばれよ」と言いたくなりました。