みなさんに問題を出します。
社会見学はあるのに、なぜ国語見学や算数見学がないのでしょう?
どうでしょう?
わかりますか?
この問題を考えながら、続きをお読みください。
社会見学という言葉は、学校だけでなく一般にもよく使われていて、このごろは大人の社会見学というコンセプトのツアーも流行っているようです。
でも、社会見学という言葉の本来の意味はあまり知られていないようです。
社会見学とは、語源的には、社会を見学するという意味ではなく、社会科の学習の一環として行う見学という意味です。
ですから、正式には社会科見学という言葉が正しいのです。
(社会科は社会についての学習ですから、結局は同じなのですが、
語源的な意味合いとしては少し違うのです)
また、このごろは生活科見学や理科見学も増えてきています。
前者は生活科の学習の一環として行う見学であり、後者は理科の学習の一環として行う見学です。
生活科見学としては、「秋を見つけよう」ということで秋の野山に行くことがあります。
理科見学としては、プラネタリウム、科学館、地層などの見学があります。
ほとんどないのが、国語科見学や算数科見学です。
それに比べて、圧倒的に多いのが社会科見学です。
(この後は略語の「社会見学」を使います)
では、なぜ、社会見学はこれほど多いのでしょうか?
それは、社会科の勉強において、本物を見学したり体験したりすることが非常に重要だからです。
どの教科でも本物体験は重要ですが、社会科におけるその重要度は圧倒的なのです。
たとえば、5年生の社会科の授業で水産業の勉強をするとします。
そのとき、教室にあるのは社会科の教科書と資料集です。
そこには、漁港、漁船、水揚げの様子などの写真と説明の文章があります。
あとは、漁獲高や漁場を表す地図などがあるだけです。
これらを使って、水産業の勉強をするわけですが、正直言って、子どもたちの意欲を高めるのは容易ではありません。
ほとんどの子は、漁港に行ったこともなければ水揚げの様子を見たこともありません。
ですから、はっきり言って興味を持てない子も多いわけです。
もちろん、教師はそういう子どもたちも興味を持てるよう工夫しなければなりません。
それが仕事なのですから。
でも、それにも限界があります。
こういうとき、漁業について本物体験をしたことがあると、授業に対する意欲がまったく違ってくることが多いのです。
たとえば、実際に漁港に行ったことがある、水揚げの様子を見たことがある、漁船に乗ったことがある、魚市場の競りを見たことがあるなどの体験です。
教科書や資料集を見ながら、そのときの様子、雰囲気、音、においなど、いろいろなことを思い出します。
実際自分が見たり体験したりしたことなので、教科書の写真や文章にも興味を持てますし、よくわかっておもしろいとも感じます。
「あ~、そうだったな」とか「へえ、そうだったのか」などと、いろいろな感想も持てます。
本物体験による1次情報を持っていると、写真や文章などの2次情報(加工情報)への興味の持ち方がまったく違ってくるのです。
そして、当然のことながら、2次情報に対するわかり方、つまり、理解度もまったく違ってきます。
また、本物体験で1次情報を持っている子は、教科書や資料集に書いてないことを知っていることもあります。
「水揚げされる冷凍マグロってカチンカチンに凍ってて、石みたいなんだよ」
「それにすごく大きくて重くて人間には持てないから、船から降ろすときはリフトやベルトコンベヤーでやるんだよ」
「魚市場の競りは夜明け前からやってるから、すごく寒いんだよ。でも、みんなものすごい大きい声で元気がいいんだよ。でも、何を言ってるのかさっぱりわからなくて、日本語じゃないみたいだった」
「見たこともない魚もいておもしろかったよ。取れたばかりの生じらすを食べさせてもらったら、最高においしかった」
(実は、これは、私が実際に受け持ったA君のことです。
A君は、親戚のおじさんと焼津港で見てきたとのことでした。)
このようなわけで、水産業の本物体験がある子は、その勉強について非常に興味を持って臨めるようになります。
これは、水産業だけでなく、社会科のすべての勉強において言えることです。
それで、社会科の学習の一環として社会見学が重要視されているわけです。
私も、教師時代に何回も子どもたちを連れて社会見学に行きましたが、そのたびに実物を見る本物体験の必要性を痛感させられました。
まさに、「百聞は一見にしかず」ということわざの通りなのです。
というわけで、わが子を社会科好きにしたかったら、親子で行く「親子社会見学」がおすすめです。
さきほどのA君のことを思い出しながら、本当にそう思います。
A君は、たった1回焼津港に行っただけで、水産業の勉強にノリノリで臨めるようになったのですから。
そして、水産業の勉強が終わるころには、知識もますます増えて学習成果が大いに上がったのですから。
では、親子社会見学はどういうところに行けばいいのでしょうか?
基本的には、社会科への興味を引き出すところならどこでもいいのです。
でも、そう言われても困るという方も多いと思いますので、手がかりになるものを紹介します。
まず、手っ取り早いのは社会科の教科書です。
これを見ておけば、その学年でどういう勉強をするのかがよくわかります。
ですから、効率的な親子社会見学をするためには一番参考になるものです。
ただ、その学年のことしかわからないという難点もあります。
そういうときは、子どもの用の社会科関係の図鑑や事典がいいでしょう。
近ごろは、いろいろと工夫されたものがたくさん出ています。
写真やイラストをたくさん使ったり、マンガやキャラクターを駆使してわかりやすい説明に心がけたりなど、よくできたものがたくさんあります。
せっかくですから、その本だけで終わらないで、ぜひ、そこに出ているものを実際に見に行くことをお薦めします。
そうすればますます興味を持つようになり、社会科が大好きになること、間違いなしです。
ただ、そこに出ているのは必ずしも学校で勉強するものばかりではありませんので、効率という点では難点もあります。
もう1つは、社会科の学習指導要領です。
「小学校学習指導要領 社会」または「中学校学習指導要領 社会」でネット検索すれば、すぐに出てきます。
これを見れば、何年生でどういう勉強をするのかがわかります。
ただ、抽象的な表現が多いくてわかりにくいという難点もあります。
小学校学習指導要領 社会
http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301b/990301i.htm
中学校学習指導要領 社会
では、次に、学年別に具体的に挙げていきたいと思います。
まず、3,4年生です。
3,4年生の社会で勉強するのは地域社会、つまり、自分の住んでいる市町村です。
4年生の後半になると、自分の住んでいる都道府県の勉強になります。
その勉強内容をもう少し詳しくすると、次のようになります。
地域の地理的特徴や暮らしの様子、店やそこで働く人の様子、農家の仕事の様子、工場の仕事の様子、火事や事故や事件や災害への対策、ごみ処理とリサイクル、上下水道の仕組み、地域の歴史、都道府県の様子、地域の産業や伝統工業。
というわけで、見学するといいのは次のようなところです。
●地域の地理的特徴や暮らしの様子がわかるところ
地域の山、森林、里山、平地、大地、盆地、海、川、街、駅、港湾施設、大型施設、各種公共施設、役所、公民館、郵便局、銀行、バリアフリーやユニバーサルデザイン、地域全体が見渡せる高いところ
●店やそこで働く人の様子がわかるところ
地域の商店や商店街、駄菓子屋、スーパー、コンビニ、デパート、複合商業施設
●農家の仕事の様子
地域の水田、畑、ビニルハウス、果樹園、用水路、青果市場、朝市、直売所、農協
●工場の仕事の様子
地域の工場、工業団地
●火事や交通事故や事件や災害への対策
地域の消防署、消防施設、消火栓、消防団の訓練、防災訓練、出初め式、警察署、交番、交通管制センター、交通の要所
また、次のことも大切です。
火の用心について親子で確認する。
地震や津波などの災害時の避難方法について、親子で確認する。
交通事故の多い場所で、事故が多い理由を考える。
子どもの通学路やよく通る道の危険箇所チェックと安全確認を親子で行う。
不審者が出没しやすい場所についても、同様に行う。
●ごみ処理と利用
地域のゴミ集積所、ゴミ処理場、古紙回収所、リサイクルセンター、埋め立て処分場、最終処分場
●上下水道の仕組み
浄水場、ダム、貯水池、取水ぜき、取水口、下水処理場
●地域の歴史
郷土博物館、史跡、地域の開拓や開発の歴史、松並木、お蔵、古い民家、一里塚、銅像、記念碑、伝統行事、伝統芸能
●都道府県の様子
近隣の市町村で地理的な特徴のある場所
●地域の産業や伝統工業
伝統産業や地場産業の現場、伝統産業館、道の駅
次は、5年生です。
5年生の社会で勉強するのは大きく分けて3つです。
つまり、1,日本の産業、2,日本の国土の様子3,環境保全です。
その勉強内容をもう少し詳しくすると、次のようになります。
1,日本の産業
農業、水産業、工業、情報産業
2,日本の国土の様子
日本の地理的特徴や自然環境や気候
3,環境保全
公害、森林の働き、環境を守る取り組み
というわけで、見学するといいのは次のようなところです。
●日本の農業
・米作り
山形県庄内平野
(教科書では、山形県庄内平野を取り上げていることが多い)
ほかには、新潟県南魚沼市や秋田県横手盆地など。
・そのほかの農業
北海道の酪農、茨城県岩井市のレタス栽培、福島盆地の桃栽培、岩手県一戸町のレタス、高知県の野菜作り、熊本県阿蘇地方の肉牛放牧、山梨県勝沼町のぶどう
・各地の棚田や里山。
●水産業
鹿児島県枕崎漁港、鹿児島湾の養殖漁業、根室漁港のさんま漁、岩手県宮古市の養殖漁業と栽培漁業、銚子港、愛媛県宇和海の養殖漁業、新長崎漁港、青森県のホタテ養殖、各地の水産試験場
●工業
自動車部品工場、自動車組み立て工場、自動車リサイクル工場、食品工場、製鉄所、石油コンビナート、町工場、東京都大田区の町工場、工業地帯、工業地域、工業製品の輸出港
●情報産業
テレビ局、新聞社
●日本の地理的特徴や自然環境や気候
・北海道(宗谷地方、十勝地方)と沖縄県(沖縄島、石垣島、竹富島、西表島、宮古島)
(教科書では、北海道と沖縄県の気候と生活ぶりを比べているものが多い)
・山地、山脈、平地、盆地、台地、高原(長野県野辺山高原)、低地(埼玉県北川辺町)干潟、群馬県尾瀬ヶ原、岐阜県白川郷、南鳥島、沖ノ鳥島
・豪雪地帯(新潟県十日町市)
●公害
水俣病資料館、新潟水俣病資料館、イタイイタイ病清流会館、北九州市環境ミュージアム
●森林の働き
トトロの森、白神山地、熊本県小国(おぐに)ドーム、各地の森林や里山、森林教室への参加、森林を歩く会への参加
●環境を守る取り組み
・世界自然遺産登録地
白神山地、屋久島
・ラムサール条約登録地
霧多布(きりたっぷ)湿原、厚岸(あつけし)湖・別寒辺牛(べかんべうし)湿原、釧路湿原、クッチャロ湖、宮島沼、ウトナイ湖、伊豆沼・内沼、佐潟、谷津干潟、片野鴨池、藤前干潟、琵琶湖、漫湖
・琵琶湖の水質改善、鴨川の水質改善、岡山県笠岡市カブトガニ博物館、沖縄県の珊瑚礁汚染、
次は、6年生です。
6年生の社会で勉強するのは大きく分けて3つです。
つまり、1,日本の歴史、2,日本の政治と憲法3,国際理解です。
というわけで、見学するといいのは次のようなところです。
●日本の歴史
一応は時代順に書いていきますが、厳密なものではありません。
◎野尻湖ナウマンゾウ博物館、相沢忠洋記念館、岩宿博物館
◎青森県三内丸山遺跡、新潟県十日町市博物館、
◎静岡県登呂遺跡、大塚・歳勝土(さいかちど)遺跡、福岡県板付(いたづけ)遺跡、佐賀県吉野ヶ里遺跡、菜畑遺跡、池上曽根遺跡、日高遺跡、垂柳遺跡
◎加茂岩倉遺跡、黒塚古墳、大山(だいせん)古墳、森将軍塚古墳、稲荷山古墳、高松塚古墳、藤ノ木古墳大阪府立近つ飛鳥(ちかつあすか)博物館、埼玉県稲荷山古墳、埼玉県立さきたま資料館、島根県立八雲立つ風土記の丘、ナガレ山古墳、新池遺跡ハニワ工場公園、
◎法隆寺、長野県平出(ひらいで)遺跡、
◎東大寺、正倉院、各地の国分寺、唐招提寺、平城宮跡資料館、風俗博物館
◎京都市平安京創生館、京都市考古資料館、太宰府天満宮
◎鎌倉市名越の切通し、鎌倉市のやぶさめ、東大寺金剛力士像、福岡県博多湾の防塁、元寇資料館
◎金閣寺、銀閣寺、竜安寺石庭、栃木県足利学校
◎鹿児島県種子島、桶狭間古戦場、長篠古戦場、関ヶ原古戦場、名護屋城博物館、大阪城天守閣、姫路城
◎日光東照宮、箱根の関所跡、長野県馬籠宿、出島資料館、江戸東京博物館、水戸市弘道館、首里城、朝鮮通信使資料館
◎松下村塾、大隈重信記念館、伊藤博文記念館、福沢諭吉記念館、西郷隆盛顕彰館、子規記念博物館、坂本龍馬記念館、横浜開港資料館、一葉記念館、野口英世記念館、富岡製糸場、足尾銅山、長野県開智学校、北海道開拓記念館
◎原爆ドーム、広島平和記念資料館、沖縄県ひめゆり平和祈念資料館、沖縄県平和の礎(いしじ)、各地の平和資料館や歴史博物館
この他にも、次のようなところはおすすめです。
◎国立博物館、京都国立博物館、国立歴史民俗博物館
●日本の政治と憲法
・国会議事堂、県議会場、市議会場、都道府県庁、市町村役場、保健センター、福祉事務所、生涯学習センター
・広島平和記念式典、長崎平和祈念式典、裁判所、
●国際理解
国際空港、各国大使館の見学
さて、親子社会見学のおすすめの場所を学年別に具体的に挙げてきました。
これらは、すべて、社会科の教科書5冊の中から拾い出したものです。
もちろん、教科書に出ていないところでも、いい本物体験ができるところはたくさんあります。
ですから、これらはごく一部と考えてください。
ぜひ、親子社会見学で子どもに本物体験をさせる機会をたくさん持ってください。
今回は触れませんでしたが、理科の本物体験もおすすめです。
親子で旅行やレジャーに出かけるとき、こういうところを1カ所だけでも組み入れるといいと思います。
身近なところでしたら、親子散歩で行ってください。
子どもにとって、本物というものは、大人が思う以上の大きなインパクトがあるのです。
水俣病資料館では、実際の患者さんたちが語り部をしています。
患者さんたちの話を直に聞いた子どもたちは、その苦しみをリアルに感じ取り、問題意識を持つようになります。
これは、4大公害病の場所や原因をテスト用に覚えるだけの勉強ではとうてい得られないものです
沖縄県の「平和の礎」には、沖縄戦などで戦没した約24万人の全ての名前が刻まれています。
言葉で一言「24万人の戦没者」と言っても、なかなかピンと来ないものです。
でも、24万人の名前が全て刻まれた「平和の礎」を見れば、人間が24万人戦没するということのリアリティにもう少し近づくことができます。
親子社会見学による本物体験で、子どもに物事のリアリティをたくさん味わわせてやってください。
それが子どもの感性を豊かにし、いろいろな興味関心や問題意識を育てます。
そして、興味関心や問題意識があることについては、普段の生活の中で触れる2次情報にも心を留めるようになります。
これを、私は「知識の杭に情報が引っかかる」と表現しています。
もちろん、冒頭にも書いたように、授業で触れる2次情報にも興味を持てますし、理解度も格段に上がります。
これらのことは一見遠回りに見えるかも知れませんが、実は子どもを本当に勉強好き(学問好き)にするための一番の近道なのです。
教科書や参考書や問題集による勉強は、一見近道に見えます。
とくに、受験やテストのために「覚える」勉強は、近道に見えます。
たとえば、4大公害病の場所や原因を覚えたり、戦没者の数を覚えたりする勉強です。
でも、本当に勉強好き(学問好き)な子にするという点では、実はかなりの遠回りなのです。