私は、教師だったころ、いろいろな楽勉カルタを作って子どもたちと楽しみました。
というのも、何かを覚えさせたいとか暗記させたいなどと思ったとき、カルタほど効果的なものはないからです。

子どもは、カルタのような勝ち負けのあるゲームが大好きです。
これは、子どもの本能といってもいいくらいです。
この本能を活用して、子どもを知的に鍛えるのが楽勉カルタです。

子どもは、勝ちたい一心でカルタを一生懸命覚えます。
星座でも、ことわざでも、都道府県庁所在地でも、なんでも覚えます。
漢字、同音異義語、四字熟語、俳句、短歌、歴史人物、なんでも覚えます。
しかも、自ら進んで一生懸命覚えるのです。

私が学校でやったときも、ある子は、負けて悔しかったので休み時間にこっそりトイレにこもって覚えたそうです。
また、ある子は、家に帰ってから家族を相手に何回も練習してきたそうです。
友達同士で、土日に集まって練習した子どもたちもいました。

こういうことは、普通の暗記では起こりえないことです。
「今度のテストで出るから、星座の形と見える季節を覚えておきなさい」とか「都道府県の特産品と庁所在地は大切だから、しっかり覚えておきなさい」などと言われて覚えるとしたら、これほど苦痛なことはないでしょう。

機械的な暗記というのは、誰にとっても本当に苦痛です。
よほど強いモチベーションがない限り、なかなか覚えられないものです。
子どもも、テストに出るからとか大事だからなどと言われても、そう簡単には覚えられないのです。
そもそも、覚えようという気にさえなれない子が大多数だと思います。

でも、これがカルタということになれば、様相が一変するのです。
大いに楽しみながら、自ら進んで一生懸命覚えるようになるのです。

さらに、カルタによって触れ合いの時間が増えるという効果もあります。
カルタなら、電子ゲームのように1人で遊ぶことはできません。
親子、兄弟、家族、親戚、みんなでカルタに興ずる時間は、子育ての最高に楽しいひとときです。

また、カルタをやると、子どもをほめる機会が増えるという効果もあります。
というのも、カルタを何回かやると、子どもは大人の想像以上の能力を見せてくれることがよくあるからです。
大人より得意になることも、けっこうよくあることです。
数回やっているうちに、「○○ちゃん、すご~い」「もうそんなに覚えたの?!あなた天才じゃないの?!」などとほめる機会が増えるはずです。

さらに、カルタで覚えたことがその後の発展的な学びのきっかけになるという効果もあります。
実は、これがとても大事な点です。

私のクラスでも、星座カルタをきっかけに、星座を扱った学習漫画や図鑑を読む子が増えました。
また、ニュースで「今年もオリオン座流星群の季節がやってきました」と言ったのを聞いて、実際に見た子もいました。

ある子は、漢字カルタで漢字の部首や成り立ち(成立の由来)に興味を持ち、漢字の学習漫画や漢字辞典を読みまくりました。
その子は、「漢字辞典で漢字の成り立ちを調べるのは、すごく楽しい。これは私の趣味」と言うようになりました。

ある子は、ことわざカルタでことわざに興味を持ち、いろいろなことわざの意味を調べて自主勉強のノートに書いてきました。
ある子は、俳句カルタで覚えた全ての俳句の情景を、絵に描いて楽しみました。

どの楽勉カルタをやったときも、それに応じたいろいろな発展が見られました。
子どもたちは、自分が覚えたものには自然に興味を持ち、もっと詳しく知りたくなるものなのです。

もちろん、とくにそういう積極的な取り組みをしない子もいました。
でも、そういう子でも、カルタで覚えたことに関係あることを生活の中で見たり聞いたりすると、それが意識に引っかかって記憶に残りやすくなるということはあるのです。

つまり、いずれにしても、暗記したものが杭のようになって、そこにいろいろな情報が引っかかるようになるのです。
これを私は知識の杭と呼んでいます。
積極的な取り組みをする子は、とても大きな知識の杭ができるわけですが、そうでない子もそれなりの知識の杭はできるのです。

私は、多くの子どもたちを教えてきた経験から、知識の杭をたくさん持っている子は必ず学力が上がると確信しています。

楽勉カルタの効果は、ただカルタに出ていることを覚えられるということだけではありません。
それをきっかけにして、たくさんの知識の杭を立てることができるという点にこそ、最大の効果があるのです。