私は、若いころ、家庭訪問先でよく親たちにこう聞いていました。
「お子さんのいいところを、たくさんほめて伸ばしていきましょう。お子さんの長所やいいところを教えてください」
ところが、なかなか答えが返ってこないことが多かったです。

「え~っ?う~ん・・・長所ねえ・・・」
「いいところですか~?う~ん、直したいところならいっぱいあるんですけど」
こういう感じの親がたくさんいました。
中には、「なんにもない」とはっきり言う親もいました。

それで、あるとき、私は、自分の聞き方がまずいのではないかと気がつきました。
それで、私はその後で、「お子さんがよくやっていることはなんですか?熱中していることはなんですか?」と付け加えることにしました。

すると、けっこう出てくるのです。
「木や空き缶を集めて、ひもやセロテープでくっつけてなんだか一生懸命つくっています」「うなり声を上げながら、絵だか字だかわからないようなものを描いて喜んでいます」
「毎日梨畑に行って、蝉の抜け殻を何千個も集めてます」
「一日中、インコの世話をしたりインコと遊んだりしてます」

それで、私が「それが、○○君の長所ですよ。いいところですよ。そこをほめて伸ばしましょうよ」と言うと、たいていの親は「え~っ?!」という反応でした。
こういうことがあまりにも多かったので、私は正直驚きました。
そして、親と子どもの価値観の違いについていろいろ考えさせられました。

もし、子どもが計算ドリルや漢字書き取りに熱中しているなら、親はすぐそれを長所として挙げるはずです。
また、ピアノ、そろばん、水泳などでも、長所として挙げるでしょう。
でも、先ほどのようなものでは、とてもじゃないけど長所とは思えないのです。

なぜかというと、親は自分の価値観という色眼鏡を通して見ているからです。
しかも、自分が価値観の色眼鏡をかけていること自体を忘れています。

親は、「自分の方が人生経験が長いのだから、何が有意義か子どもより知っている」と思っています。
ですから、自分の価値観を絶対視してしまい、子どもの価値観ははるかに低いもので取るに足らないものだと思い込んでいます。
親は、このことを意識していません。
意識していない分だけ、どっぷりつかり込んでいるのです。

親は、たとえば、学校に結びついたもの、勉強のにおいがするもの、将来役に立ちそうなものなどだったら、有意義だと考えます。
ですから、それに熱中していれば長所ということになりますが、それ以外だと長所とは思えないのです。

でも、私は、子どもをほめて伸ばすには、この親の価値観という色眼鏡をはずす必要があると考えます。
そして、子どもの立場に立って、子どもの価値観を受け入れてあげる必要があると考えます。

なぜなら、それがその子のやる気の旬であり、その子のやる気の最前線だからです。
そこには、子どものやる気がみなぎっているのです。
そこをほめないで、いつなにをほめるというのでしょう?

多くの親は、このようなとき、子どもをほめるどころか叱ってやめさせます。
そして、自分の価値観に合うものをやらせようとします。
このようなことを繰り返していると、やがて子どもは一切のやる気を失います。
親がやらせたいことはもちろんやる気になりませんし、それどころか、自分がやりたいことすら見つけられないという状態になってしまうのです。

そうなってから、親は言います。
「うちの子は、なぜ、やる気がないのでしょう?」
「どうしたら、子どもをやる気にさせられるのでしょう?」

せっかく子どもがやる気になって熱中しているとき、ぜひ、ほめてあげてください。
そして、ほめるだけでなく、もっとそれに熱中できるようにバックアップしてあげてください。

子どもは、親のバックアップがあれば、自分の熱中していることをどんどん深めていくことができます。
そして、誰にも負けないくらい得意になることができるのです。

たとえば、昆虫好きな子がいるとします。
親がバックアップしてあげれば、その道をどんどん深めることができます。
昆虫採集に行く、通年で昆虫飼育をする、昆虫博物館に行く、昆虫図鑑や昆虫標本を買う、などなど、いろいろな方法で深めることができます。
そうすれば、子どもは、昆虫について誰にも負けないくらい得意になります。

でも、親のバックアップがないと、子どもだけではこれらのことはできません。
ですから、昆虫が好きな子がいたとしても、ほかの子より少し得意で終わってしまうのです。

親のバックアップによって好きなことを深め、誰にも負けないくらい得意になると、子どもは自分に自信を持てるようになります。
これは、その子にとってとても大きな力になります。
これによって、ほかのものに挑戦する意欲や勇気がわいてくるのです。

さらに、これによって、親子関係がよくなるのも大きなことです。
というのも、子どもの熱中を応援する決意をして実行していると、自然に親が子どもをほめる回数が増えるからです。
親が自分の好きなことをバックアップしてくれて、どんどんほめてくれるのですから、当然子どもは親のことがますます大好きになります。

さらに、好きなことに熱中しているときに脳の神経細胞がどんどんつながるという事実もあります。
つまり、頭の性能自体がよくなるのです。
これは、脳科学が実証済みです。

親に押しつけられたことをイヤイヤやっているときよりも、子ども自身がやりたいことに熱中しているときの方が頭がよくなるのです。
これも、また、大きなことです。

さらに、好きなことに熱中して深める段階で、子どもは深め方のノウハウを身につけます。
本物を見る、本物体験をする、現場に行く、図鑑や本やネットで調べる、博物館に行く、詳しい人や専門家に聞く、気がついたことや調べたことをノートにまとめる、同好の士を募る、などなどのノウハウです。

これらのノウハウが身につくのですが、この場合の「身につく」という意味は、自然にそういうことができるようになるということです。
これは、その後の人生のいろいろなところで役立ちます。

さらに、好きなことに熱中する経験をたくさんしている子は、熱中することの楽しさと熱中の仕方を知っています。
そういう子は、いつも自分のやりたいことを自分で見つけ出すことができるようになります。
そういう子は、大人になってからも、「自分がなにをやればいいかわからない」という状態になることはあり得ないのです。

そういうひとは、たとえ意に沿わない仕事についても、その中で自分が熱中できるものを見つけ出すことができます。
常に、自分のいる環境や条件の中で、熱中できるものを見つけ出して楽しむことができるのです。

これも、また、大切な能力です。
こういう能力こそ、子どものときから養うことが大切です。
大人になってから急に身につけることはできないのです。

そして、さらに、このような熱中体験をたくさんして成長したひとは、個性的でユニークな発想ができるようになるということもあります。
というのも、そのひとの内側に個性的でユニークな教養大系ができているからです。
そういうひとは、仕事においても自然にオリジナリティを発揮することになります。
ひとが考えつかないようなアイデアを出すのは、こういうひとたちなのです。

今、世の中のいろいろなところで、このような人材が求められています。
新しいビジネスを生み出せるひと、斬新な企画を考えて先頭に立って実行できるひと、前例がないことをどんどんやれるひと、そういうひとが求められているのです。

小さいころから受験受験で追いまくられ、受験勉強による教養しかないという場合は、個性的でユニークな発想という点で苦手にならざるを得ません。
受験勉強とは、試験で出される問題に効率よく解答する訓練です。
出される問題は入り組んで複雑かも知れませんが、内容的には誰もが勉強する極めて一般的なものでしかあり得ません。

そこでは、個性的でユニークな教養など必要ありません。
ですから、小さいときから受験勉強ばかりして成長すると個性的でユニークな発想という点では苦手にならざるを得ないのです。

そして、さらに、子どものころから自分の価値観を大切にしてもらえたひとは、生涯にわたって自分の価値観を大切にしていけるということもあります。
そして、そういうひとは、同時に他人の価値観も大切にします。

これも、また、大きなことです。
それは、「自分がある」ということであり、「個が確立している」ということでもあります。
「自分らしい生き方ができる」「自分の人生を生きられる」「ひとが何と言おうと、自分の生き方ができる」ということです。

そういうひとは、みんながマネーゲームに走っても自分は流されたりしません。
そういうひとは、みんなが「年収がどうのこうの・・・」と言っていてもびくともしません。
そういうひとは、他人の価値観に合わせて生きることの虚しさを知っています。
いろいろな面で、「ひとがやるからやる」ということとは無縁なのです。
こういうひとだけが、自分の人生を生きることができるのです。

ここまで、熱中体験の大切さをいろいろ書いてきましたが、なんといっても、好きなことに熱中するというのは人間にとってとても幸せな状態であり、これこそ生きる喜びそのものです。
子どものときにこういう時間をたくさん持つことは、いいことに決まっています。
そのいい影響は、これとこれとこれ・・・などと文章で書ききれないほどのものだと思います。

ということで、私は、親であるみなさんにもう一度言いたいと思います。
子どもをほめて伸ばすには、親の価値観という色眼鏡をはずすことが必要です。
そして、その子と同じ目の高さに立って、子どもの価値観を受け入れてあげてください。
その子のやる気の旬、その子のやる気の最前線をほめて、さらに深められるようバックアップしてあげてください。

大切なのは何に熱中するかではなく、何かに熱中することです。

もちろん、それがずっと続いて一生の仕事になるということでなくていいのです。
あることに熱中していて、それが冷めてもいいのです。
そういうことは、とてもよくあることです。
それは、決してムダではありません。
それは、必ず次の熱中体験につながりますし、何よりもその子の生きる力になっていくのです。

今日のアマゾンを見てみる

親野智可等のメルマガ
親野智可等の本
遊びながら楽しく勉強
親野智可等の講演
取材、執筆、お仕事のご依頼
親野智可等のお薦め
親野智可等のHP